最強の越中をつくる |
越中ふんどしのいいところは、デザインが簡単なことだろう。
基本的に、一枚の布と、一本のヒモだ。
多少裁縫の心得のある人なら誰でもできるはず。
実際、昔はみな家庭婦人が手作りしていたものらしい。
気に入った素材が手に入ったら、母親とか奥さん、彼女に頼み込んで作ってもらうといい。(もちろん自分で作ってもいい)私は商売柄、かなり面白い布素材に囲まれている。
その中には、「これで作ってみたい」という布がいくつもある。
そうした布を使って試作し、使ってみる。
そして「最強の越中」を探らんとするのである。
その2 綿カディーの越中 (00/3/22)
カディーというのは、インド製の手紡ぎ手織り生地のこと。
ほら、よく映画の中でガンディーが綿糸を紡いでいたりするよね。あれで織り上げたのが、綿カディー。
昨夏その生地を使って越中を作ったんだけど、絹製に比べてあまり快適ではなかったので、そのまま放っておいた。
ところが、冬場になると、やっぱり綿がいい。
それで現在、常用している。
右写真は生地を拡大したところ。
ご覧の通り、手紡ぎ手織り特有の不均一性がある。
このファジー感が、柔らかでナチュラルな肌触りをもたらすわけだ。
ただ、手紡ぎ糸はおそらくヨコ糸のみで、タテは手紡ぎに近い機械紡糸だろうと思う。
さすがのインドでも、現在では、タテヨコとも手紡ぎの綿カディーってのは、なかなか見つからないのだ。
ともあれ、まがりなりにも手紡ぎ手織りの綿生地による越中というのは、現在ではかなり珍しいのではないかと思われる。
もちろん、つけ心地も上々。
絹が下着素材として好適であることは、つとに知られている。
すなわち、吸湿・放湿性に優れ、抗菌性も高いからである。ひらたく言えば、濡れてもすぐに乾き、べとついたり、ムレたり、匂ったりしないのだ。
野蚕もまた同様の性質を持っている。
野蚕は家蚕と比べ、繊維が多孔質なので、更に素材的に優れているのではないかと推測されている。
吸放湿性についての試験はまだされていないが、紫外線カット率については家蚕を上回るそうだ。
そこで私はこの夏、二種類のタッサーシルク布で越中を試作し、着用している。
どちらも手引きの生糸で手織した平織の布で、ひとつは無漂白(写真左)のもの、もうひとつは半漂白(写真右)のものだ。
無漂白の方は、ご覧になってもわかるとおり、天然の褐色を呈している。原糸の濃淡により年輪のような模様が浮き出て、まことに美しい。
無漂白ゆえに、セリシンがよく残っている。(セリシンというのは繊維を保護するニカワ質のタンパク質)
またタッサーの繊維は家蚕のものと比べると数倍太い。
こうした特性があいまって、家蚕の羽二重とはだいぶ風合いが違う。
触ってみると、麻のようなシャリ感がある。
絹のような滑らかさの全くない野生のシルク。
つけ心地は爽快この上ない。
ことにヒモを結ぶ際の感覚が絶品。
木綿などに比べ絹のヒモはほどけにくいと言われるが、このタッサーシルクは更にその上を行く。
軽くゆわくだけで一日中解けることがない。
一日使うとヒモがシワで丸くなってしまうが、別にアイロンで伸ばさなくても実用に差し障りはない。
また洗濯後の乾きの早さもピカイチ。
羽二重のものよりも更に早い。
旅先で洗い忘れたとしても、朝、流しでサッと洗い、二三度パタパタと風をはらませば、それで着用OKだ。
セリシンがよく残っているので、普通のシルクより耐久性も高いと見られる。
ただときどき、陽物の先にザラついた感覚をおぼえることがある。
これがちょっと欠点だろう。
どのようなTPOにおいてそのような現象が起こるのか、ただいま調査中。
(ま、多少ラフな方が一物の鍛錬になっていいか!?)
半漂白のものについては、無漂白に比べ、少々柔らかい感じ。
ただ全般的な特性については、無漂白のものとあまり変わらないと見た。